それはたった一瞬の、


「誰も知らないはずの秘密があって、でも柊はどうしてかそれを知ってた」

私と沙霧しか知らないはずの秘密を。

「…柊は、そういう人です」


半ば諦めたように呟かれた言葉は、少しの間宙を彷徨って私の脳に届く。

「私はまだ朱天楼のことを何も知らない。それでもみんなのことだけは知っておきたい」

「次は柊のことを知る番だと?」

「うん、そういうこと」


力強く頷くと、彼女の表情がほんの少し安心に緩んだように見えた。


あのシルクハットの下に隠された表情を、私は見ることができるだろうか。



< 118 / 228 >

この作品をシェア

pagetop