それはたった一瞬の、
心ここにあらずといった様子で、彼は私を部屋に入れる。
柊の顔が近づく。
その手が私の両頬を挟み込む。
「聞いて後悔することもたくさんあるかもしれない。それでも君は知りたいと思うかい?」
私を思いとどまらせるための、最後の忠告だったのだろう。
「もちろん。知らなかったらもっと後悔する」
けれどその忠告を聞かずに深く頷くと、彼は破顔した。
「…敵わないね、君には」
鼓膜に響く優しい声。
空気の隅々まで沁み渡るような、深く感傷の滲む声。