それはたった一瞬の、


雨が降るようにしっとりとやわらかい声で、彼がぼんやりと呟く。


「僕は…何なんだろうね」

自分のことをよくわかっているのは自分自身だと、誰かが断言した。

自分のことなど自分が一番わかっていないと誰かが豪語した。


けれど今の彼には、どちらの言葉も届かない。

「成功する一歩手前まではいったんだ。でもそこまでだった、完成には届かなかった」


不意に視界が暗くなる。

抱きしめられているのだとやけに冷静に悟った自分がいた。


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