それはたった一瞬の、


私たちでもうるさいのだから、それを間近で聴いていた沙霧は相当なダメージだろう。

脱力したようにしゃがみこんで身動きがとれないようだった。


「うる…っせぇー…っ」

しばらく悶絶していた沙霧が、ふらふらと立ち上がって私たち2人に目を向ける。


「柊」

体がびくっと震える。
もしかしたら私たちの会話も聴こえていたのだろうか。

何を言われるのか身構えていたけれど、彼は核心には触れようとしなかった。

「ありがとな」

呟いた声は私たち2人の胸に染み渡った後、爽やかに吹き抜けていった。


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