それはたった一瞬の、
「その様子だと、無理だったようだね」
溢れそうだった涙が奥に引っ込んで、辺りの景色が鮮明になる。
急に周りの色がくっきりと浮かび上がって見えた。
背後から近寄って来る足音に耳を澄ませながら、私は唇をかみしめる。
「…嘘つき」
とうとう側まで近寄ってきた足音――柊が、わざとらしく肩をすくめる。
「私の、私の力なんかじゃ、」
扉は開かなかった。
言葉の後ろに隠した意味を読みとったのか、彼の表情はさっきよりもどこか寂しく申し訳なさそうに見えた。