それはたった一瞬の、

踏み出せ



母さんがいなくなった後、心ない言葉をたくさんかけられた。

小学校では腫れものを触るように扱われるし、かと思えば真っ向からぶつかられることもあった。


『お前、母さん死んだんだろ?』

カッとなった次の瞬間、頭の中が真っ白になって。

気付けばわざわざ学校までやって来た父さんが、先生や保護者に必死で頭を下げていた。


『…私、悪くないよ』

『わかってる』


低い声で呟いた父さんは、いつものおちゃらけた父さんじゃなかった。

それを見て、父さんも悔しかったんだと知った。

『だけど藍火、お前ももう少し落ち着いていればよかったな』

そんなの、無理だよ。


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