それはたった一瞬の、
「藍火ー!お帰りー!」
玄関口で靴を脱いでいると、釧奈が背中に飛びついて来た。
その重みと軽やかな空気がさっきまでの雰囲気とはまるで違って、鼻の奥が熱くなった。
「ねぇ藍火、どうしよう」
「?」
「よもぎが、部屋から出てこないの」
開け放した玄関に吹き込んでくる風は生温かく、ちっとも爽やかじゃなくて。
「快適さ」なんて忘れるほど私たちを不快にさせた。
それはもしかしたら風のせいじゃなく、私たちの気持ちの問題だったのかもしれない。