それはたった一瞬の、
彼女の部屋のドアの前には、沙霧が気だるそうに座り込んでいた。
柊の姿が無いことに一抹の不安を覚える。
「よもぎー…、開けろって」
「嫌ですっ」
さっきから同じやり取りがずっと続いているのか、沙霧の声には疲れの色がありありと滲んでいる。
釧奈がよもぎちゃんに聞こえないよう、耳元で囁く。
「あのね、藍火さっきまでいなかったでしょ?それであたし、よもぎに訊いたの。藍火はどこ行ったの?って。
そしたら、『知りません!!』って大きな声で言ったんだよ」
いつもおしとやかで、笑顔がふんわりと柔らかくて。
そんな彼女をいつも見てきた釧奈は、その時の彼女が信じられなかったと言った。
「あんなよもぎ、初めて見た」
パキリ、何かが割れる音がする。