それはたった一瞬の、


何かが劇的に変わったわけではなかった。

青い空が見えたことで、確かに自分たちの中には希望が湧き上がったのかもしれない。


けれどもこの命も、異常な聴力も、何一つ変化したわけではない。

彼女がいなくなってからも、日常はあまりにもいつも通りに動いていた。


そうだ、忘れていた。

「…釧奈」

頭の隅が痛む。
胸が圧迫される。

乱れた呼吸を意識的に整えようと彼は大きく息を吸い込み、そして呟いた。


「俺、お前に話してなかったことがあるんだ」

変わるなら、今じゃないか。


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