それはたった一瞬の、
釧奈の場合
「俺、お前に話してなかったことがあるんだ」
涙が出そうだった。
うれしかった。
どうしようもなくうれしかった。
沙霧、あなたはやっとあたしの存在を認めてくれたんだね。
ずっと側にいると決めてきた。
彼の隣に寄り添うのでなくてもいい。
彼が安心できるよう、辛くなった時に逃げ場を用意できるよう、少し離れた所から見つめているだけでもいい。
彼にとって最も居心地のいい場所に、なりたかった。
そう思って彼女は生きていた。
この暗く冷たかった、世界の中で。