それはたった一瞬の、
母さんの遺品をこんなに簡単に捨てるわけがない。
現に父さんは自分が作家だったことを認めた。
ずっと前に見た原稿の文字と父さんの筆跡が頭の中で一致する。
どうして、黙ってたの。
そんな私の思いを見透かすように父さんは頼りなく笑って。
17年も騙されてきた私の苛立ちだとか悔しさだとか、そんなものが馬鹿みたいに思えるぐらい拍子抜けなことを呟いた。
「だって、父さんが作家だなんてカッコ悪いだろう」
「…は?」
「嫌だったんだよ、藍火に自分の文章を見せるのが」
自分勝手で、殴り飛ばしてやりたい程簡潔な理由だった。