それはたった一瞬の、


しゃがみ込み原稿を裏返してじっくり読んでいると、喉の奥から何かがせり上がってきた。

自分の文章を見られるのが嫌なのか、父さんが渋面を作っておい、と私をたしなめる。


そんなことも気にせず文字の羅列に目を通して、読んで、読んで……。

「父さ、ん」

声が、震えて。

「どうした、藍火」

険しかった顔が戸惑いに歪む。


だって父さん、これは――。


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