それはたった一瞬の、
昨日会ったばかりでまだ話し慣れない人々が、私の周りを取り囲む。
まだいまいちピンとこない。
朱天楼という、おとぎ話のような響きに。
ぽかんと口を開けてかたまっていると、急に柊がその手を引いた。
「わっ、と」
こけそうになった体勢を慌てて立て直し、依然としてシルクハットで隠れたままの顔を覗き込む。
そこだけ隠れていないせいで余計に強調される口元が、緩く弧を描いた。
「言っただろう?僕はこの中で一番の紳士だって。レディのエスコートもお手の物だよ」
その割には扱い方が荒々しいような。
口には出さず胸中で文句を呟くと、今度は釧奈に思い切り背中を押された。