それはたった一瞬の、
「この人たちだって、私だって待ってる!父さんの小説、ずっと待ってるよ!」
私は父さんの書く小説を何も知らない。
今まで見せられてきたものは全部「母さんの原稿」として読んできたから。
だけどこれからはちゃんと「父さんの書く原稿」を読みたいと思うよ。
そこに私たちが思い描いた、みんなが笑える世界があると信じたいから。
「そうか…」
父さんが原稿の紐を解く。
そうして一枚一枚丁寧に読み返した後、ふにゃっと情けなく笑った。
「書いてみようかな、最後まで」