それはたった一瞬の、
「藍火、早く!あたし頑張って朝ごはん作ったかも」
「かも」の使い方がかなり間違っている気がするけど、気にしたら負けだと思う。
のんびりできない朝は、父さん以外の人の声で始まった。
そう言えば昨日は何が何だかわからない間に、用意されていた部屋に押し込まれたんだっけ。
一見すると小さな建物だけど、中は結構広いようだった。
黙って後ろを歩いていた沙霧が、急に唇を耳元に寄せてくる。
「藍火。釧奈はあんなこと言ってっけどよ、実際あいつがやったことと言えば米研ぎぐらいだぞ」
「そうなの?」
「おぅよ、それ以外は全部俺がやらされてんだ。ほんとにあいつって奴はよぉ…」
声が聞こえたのか、釧奈が恐ろしい勢いでこっちを振り返る。
「あぁーっ!沙霧ひどいかも、ひどすぎかも!あたしだって藍火にいいとこ見せたいかも!」