それはたった一瞬の、
母さんはいない。
5年前、私がまだ小学生の時に病気で他界した。
まったく辛くないと言えば嘘になる。
でも大丈夫だから、安心してね母さん。
母さんは作家だった。
特別人気があるわけではなかったけれど、時々届いてくるファンレターをうれしそうに眺めていた。
小さかった頃、ファンレターの差出人にやきもちを妬いたこともある。
まだランドセルを背負っていた私に、母さんは何度も言って聞かせた。
『作家っていうのものはね、藍火。多くの人に慕ってもらわなくていいんだ。ほんの少しの人でもいいから心の中に長く残る、そういう作品を書ける人が本当の作家なんだよ』
今ならその意味がよくわかる。
母さんは読者の人たちをとても大切にしていた。