それはたった一瞬の、
『こらぁっ、藍火!』
いつも笑顔を絶やさない母さんが怒る時は、決まって私が挨拶をしない時だった。
お帰り、ただいま、ありがとう、ごめんなさい、おはよう、おやすみなさい…。
それが世間では当たり前で、でも我が家では最も大切なルールだった。
今まで生きてきた中で、私は何度これらを口にしていることだろう。
きっと数え上げれば途方も無い数になるはずだ。
「…ただいま、よもぎちゃん」
母さんの思い出にひっついてやって来るのは父さんの顔。