それはたった一瞬の、
あまりにも痛々しい姿に目をつぶりたくなって、でもそうすることが一番失礼なことだと思いなおす。
じっと聞いていれば何か変わるだろうか。
沙霧の中で何かが救われるだろうか。
そんなもの、わかるはずがないけれど。
「あいつの側にいるとカウンターの進みが遅くなる気がする。…少しでも、生き延びられる気がするんだ。
だからこんなことを話して、離れてほしくない。でも、俺は…」
遠ざけたい、側にいてほしい。
それは矛盾しながらとても共感できるもので、涙腺を守ることにいっぱいいっぱいだった。
もうこの場に、言葉なんて必要ない。
不器用で塗り固めたその中に、何より清らかな想いを知る。
好きだと、大切だと口にしないのは釧奈を言葉で縛りつけないためか。