それはたった一瞬の、


『母さん、母さん、死んじゃやだ…っ』


何とも幼い言葉だった。
繰り返せば何か変わると信じて、ひたすらに叫び続けた。

母さんが生き返ってくれるのかと思っていた。

こんなものは全部夢で、大声で呼べば母さんも戻って来てくれるって。

これはただの悪ふざけでしょうって。


今思えば、これ以上ひどい悪ふざけなんて無い。

でも母さんがまた笑ってくれたらそんな悪ふざけも許せるから。


安らかに眠って、なんてとても言えない、言いたくない。


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