それはたった一瞬の、
『ごめんな藍火、遅くなって』
『…ほんと、最悪。ひとりで食べとけばよかった』
仕事で出て行く父さんは、帰りがいつも遅かった。
それは男手一つで私を守るためだって、気付かないほど子供じゃない。
だけど空腹で何時間も待たされればさすがに腹が立つもので、食事の前の私はいつも仏頂面だった。
それでもひとりで食べることがなかったのは、母さんの言葉のおかげだと思っている。
家族誰ひとり欠けることなく食卓を囲むこと。
それが挨拶の次に母さんが大切にしていたことだった。