それはたった一瞬の、
「何を仰っているのですか」
「え、何って…」
外へ踏み出した時の、初夏の香りは感じられない。
よもぎちゃんの笑顔は春の香りを含んでいるけれど、だからといって今が春であるという証拠にはならない。
その言葉はよもぎちゃんの笑顔を例えるための比喩に過ぎないのだから。
「初めに言ったではありませんか、ここが夢の都だと」
鳥肌が全身を駆け巡ったのはどうしてだろう。
「この街に季節などありません。暑すぎず寒すぎず、快適に過ごせる気候が何年でも何十年でも続きます」
人形よりもかわいらしく華やかな表情で、彼女はそう言った。