それはたった一瞬の、


夏のうだるような暑さがうっとうしくて仕方なかった。

冬の身を切るような寒さがつらくてたまらなかった。


無くなってしまえばいいと思ったことも一度や二度ではない。

でもやっぱり、季節が無いのは寂しいよ。


「藍火、どうかされましたか?」

「嫌だよ、そんなの」

「藍火…?」


蝉の声を聴きたい、純白の雪を眺めたい。

「私、は……」


ゆらり揺らぐ世界の中に、今まで共にいた四季の安らぎは無い。


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