それはたった一瞬の、
釧奈の顔も、声も、安らかだった。
目の前に地獄が待っているのに、まるでそこを天国と勘違いしているようだった。
私が、力ずくで連れ戻してあげたいと思うほど。
「だって、沙霧と同じだから」
頬を引っぱたけば、その目は覚めるだろうか。
「あたしは沙霧のいる世界で生きたいよ。だから沙霧がいなくなったら、あたしは耐えられない」
いいや、きっとどんなに正論を並べたとしても彼女は目を覚まさない。
「沙霧より先に死にたいの。それで、向こうで沙霧を待っていたい。
そのためには、長い命なんて必要ないの」
彼女は、弱すぎた。