はつこい―最後の恋であるように―
杏美さんの好きな人が、
海外へ転勤して行ったそうで、
追いかけようか迷っていた杏美さんに、
田野が行くように言った、と。


声を詰まらせながら、
語っていた。


「俺のせいだ。」と。


俺には何も言えなかった。



その日の学校では、
『市川杏美が駆け落ちの途中、
恋人と一緒に事故で亡くなった。』
という噂で持ち切りだった。


杏美さんは、
とても美人で目立つ人だったからだろう。

おそらく噂の中の『恋人』は、
杏美さんの好きな人とは違うだろうが。


幸か不幸か、あるいは当然か、
その日、田野は学校を休んでいて、
その噂を直接耳にすることはなかったはずだ。


次に田野と顔を合わせたのは、
杏美さんのお通夜だった。
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