依頼人
顎下に、ピタリと冷たい感触があり、ツヨシはゆっくりと目を開けた。
その何分も前に、既にツヨシの意識は目覚めていた。
女が何をしようとしているかも、気付いていた。
だが眠っているふりを続けた。
女の目的は、ツヨシの目的と一致していたから。
「殺れよ」
ツヨシが優しく囁いた。
「どうして……?
あなたなら、
私が殺める前に、
私を殺してくれると思ったのに」
女は両目から透明な滴をボロボロ零しながら、小刻みに震えている。
何が悲しいのか、この女の過去に、一体何があったのか。
そんなことはもう、ツヨシにとってはどうでも良いことだった。
一思いに、この喉を掻っ切ってくれたら、それでいい。
それ以上のことは、女に求めていない。
「生憎、俺は死にたいんだ。
止めねぇから、さっさと殺れよ」
言って、ツヨシは幸せそうに微笑んだ。