依頼人
雨の音が急に大きくなったように感じた。
ずぶ濡れの衣類が全身に張り付く不快感も、気になりだす。
雨はいけない。
殺しには好都合だが、不愉快でしかたがない。
湿った空気も、身体が濡れる感触も。
「悪いが、俺は女と子どもは殺らねぇ」
「口封じは?」
女が容赦なくツヨシの言葉の矛盾点をついてくる。
「言いたきゃ、言えばいいさ。
とにかく、俺はあんたを殺さない」
言い終えるや否や、ツヨシはクルリと身を翻し、女に背を向け歩き出した。
パシャパシャと水を跳ねながら、女が追いかけてくる。
ツヨシは軽く一つ息を吐く。
「あのなぁ、俺は……」
言いながら振り返ると、ポスッと女の身体はツヨシの胸に納まった。