屋上にて
「あなたもですか……」

私は工藤に向かって言った。
誰がどう見ても飛び降りようとしている。
工藤も、そして私も。

「ええ…。浮気がバレましてね。妻は家を出て行きました」

工藤は軽く空を見上げ、遠くを見て言った。
そして足元に視線を落とすと、言葉を続けた。

「部長に紹介されて結婚したもので、部長の顔にも泥を塗ってしまって…。
 社内でももう立場がありません。
 出世の見込みもありません。もう何も残らないんです」

「そんな事で死のうと?」そう言おうとして安田は言葉を飲み込んだ。
これから死のうと思っている自分が言える事ではない。

さらに工藤が話し続ける。

「僕は昔から何ひとつ取り柄がありませんでした。
 やっと結婚できて、しかも部長の紹介ですから、
 仕事の方もうまく行きそうでして」

そこまで話すと工藤は安田の方に顔を向けた。

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