屋上にて
「でも愛情のない結婚でした。そして、魔が差したんですね。
 優しくしてくれた女性とつい……」

彼もずいぶんと悩んだのだろう。
死を選ぶには普通じゃない覚悟がいるはずだ。

「私は会社の金を使い込みましてね。
 もう駄目なんです」

こちらも工藤に自分の事情を簡単に説明した。

「いいじゃないか。二人とも」

後ろから、そう声が聞こえた。

二人が振り向くと、そこにはトレーナーを着た、やや老けた感じの男がいた。

「俺は金にも女にも縁がなくてな。
 何にもなかったんだ。何をやってもうまくいかないんだ」

「死のうと思ってな。薬とか手首切ったりとか
 いろいろやったんだ。
 でもそれもうまくいかなくてな。
 死ぬ事すらうまくできなかったんだ」

「まあ、ここから飛び降りれば、
 間違いなく死ねるんじゃないかって思ってな」

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