屋上にて
「じゃ、そろそろ」

「お先にどうぞ」

「いえ、どうぞ」

「いや、私はあとでいいんで」

「じゃ、そちらから」

「いや、俺もあとでいいよ」


「じゃ、せーの、で行きますか」

「そうだな」

「一斉に飛びますか」

「じゃ、行きますよ」

「せーの!」


しかし、誰も飛び降りなかった。


「あ、いや、ちょっと足が」

「すみません、タイミングがつかめなくて……」


妙な沈黙が流れる。
死の直前だというのに、誰かと話したことによって落ち着きが生まれた。


「じゃ、明日にしませんか?」

「そうだな」

「明日にしよう」

「じゃ、明日の昼2時にここで」

「わかった」

「わかりました」

*************

次の日、屋上には誰も来なかった。



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