綺麗なお兄さんは好きですか?
「嘘だって!」
トイレの壁を力いっぱい殴った
鏡には、俺はいなかった
代わりに地味な、僕がいた
ジンジンと拳が焼けるように熱い
廊下から聞こえる楽しげな笑い声や
水道から垂れてくる水滴がポタポタと音が
俺を苛立たせた
「っくそ、くそぉ」
荒い息が零れる
体が熱い
クラクラする
俺はその場にしゃがみ込んで自身の体を抱きしめた
「は…ははっ!」
戻った、ただそれだけじゃないか
あんなに戻りたがっていたんだ
喜ばしいことだ
そうだ、喜べ。
フラフラとした足取りでトイレを出た時
“俺”は“僕”に戻った
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