寂しさを埋めて

藍希は小丘になっている噴水の前で、夕日を眺めた。
一日ぶりの外は、通り過ぎる風が心地良かった。
目を閉じると、音が藍希を包むような錯覚に襲われる。



『藍希、俺はお前が好きだ…』

風邪菌に侵されながら、でも確かに聞いたと[思った]、淳の声。
叶わないと諦めていた想いが通じた、あの出来事は、夢だったのではないかと勘繰る自分がいる。

昨日、眠り込んだのは淳の腕の中だったはずなのに。
起きてみたら淳は居なくて…。
時間的に当然なのに、不安を抱える自分がいる。


「淳、兄……」

呟いた声は誰にも届くことはなく、木枯らしに打ち消されてしまう。

「淳兄ぃ……」

さっきよりも少し大きな声で呼んでみる。

__淳兄…。

怖いの。

不安なの。

寂しいの。

そばに、いて欲しいよ。

ねぇ、淳兄…。

夢じゃないって…。

嘘じゃないって言ってよ。


「淳兄ぃっっ!!」

叫んだ。
夕日に向かって。
淳に届くわけないと分かっていたけど…。
心が、潰れそうで…。

叫ばずにはいられなかった……。


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