寂しさを埋めて
発熱
熱い。
怠い。
息苦しい。
鼻は詰まっているから口で息しようと空気を吸ったら、ごほっと咳が漏れた。
「ぅ~…」
どうにもしんどくて寝返りを打つ。
「藍希(あき)?起きたのか?」
様子を伺うような声音はよく知っているものだった。
そのことにほっとしたけれど、それに答える気力さえ残ってはいない。
ただ、ひたすらに身体を丸めて、体内を侵す菌と戦っていた。
いつまで経っても返事がないから、声の主は「まだ起きていないのだ」と自己解釈する他ない。
「薬飲んだばっかりだもんな…」
囁く声とともに、指先が汗で張り付いた髪毛を払ってくれた。
熱を測るかのように額に置かれた手が、冷たくて気持ちが良かった。
程よく冷たい指はそのまま、こめかみを通って頬に触れる。
ふと、露わになった額に柔らかくて仄かに熱の宿ったものが押し当てられる。
それは正(まさ)しく一瞬だったが、まるで頭痛を和らげようとするかのようで、意識はまた混濁し始める。
優しさと冷たさに包まれて沈んでいく意識に、唐突な言葉が響く。
「好きだ…、藍希……」
囁くような、掠れた声は今までに聞いたことのない熱を含んでいて。
動きを止めた意識は少女に安らかな眠りを赦さず、その瞼を開けさせた…。
それは、滅多に引かない風邪にうなされて苦しんだ、藍希が中学二年生の初秋だった。