寂しさを埋めて
淳は藍希の目を見つめる。
その表情(かお)がどこか寂しそうだと感じたのは気のせいだろうか…?

「それに…、藍希は誰かに見られたらまずいことでもあるのか?」

藍希を見つめる淳の瞳は無表情で、真剣な淳に誤解されることが怖い。
藍希は反射のように勢いよく顔を横に振った。

「ぅっううん!!な、いよっ」

そか、と納得して淳が笑みを零す。
緊張を解いて安堵の溜息を吐いた藍希を、淳はそばの白い壁に押し付ける。
藍希の頭の両横に手をつくと、彼女は逃げ出せない。

「ちょっと、淳兄…近いょ……」

追い詰められた状況に慣れず、近距離で見つめらることに藍希は頬を紅潮させて、身体を縮める。
その藍希の耳元に淳はそっと囁いた。

「そんなにオシャレして学校に行くな。
可愛い藍希を見るのは俺だけでいいんだよ」

可愛くないと否定したいけど、淳(かれし)に褒められるのは嬉しくて、声が出ない。
淳が耳元から離れて藍希を見つめる視線を感じながら、藍希は顔の熱さを紛らわせようと俯いた。

「分かったか?」

同意を求める声はひたすらに優しくて。
藍希は促されるままに首肯した。

「よろしい」

淳はそう言うと、藍希から身体を離して肩を軽く押す。

「ほら、遅刻しないように急げよ」

そうして送り出してくれる優しさが、ひどく嬉しかった。

「うんっ!いってきまぁす!」

満面の笑顔で手を振ると、それに応えて淳も手を振り返してくれる。
学校に向かって歩き出す藍希の口元に、また微笑が浮かんだ。

__ああ、幸せだなぁ~…



麗らかな空気に包まれて、藍希は登校する。

その先に、待っている運命など気にも掛けないで…__。

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