寂しさを埋めて
「で、藍希の彼氏って何してるの?」
「何って?」
突然の話題に、藍希は首を傾げる。
凪都帆は朝一のハイテンションのまま言った。
「仕事だよ、仕事!
年上なんでしょう、社会人なんでしょう?」
「うん、お兄ちゃんの友達だから…」
凪都帆の勢いに押されながら、藍希は頷く。
__でも、淳兄って何の仕事してるんだろう?
淳と和司は去年大学を卒業したけど、何の仕事に就いたか、藍希は知らないことに気づいた。
「幼馴染ってやつだよね。
憧れるなあ、年上の彼氏なんて」
「そんな…凪都帆ちゃんにもカッコいい彼氏がいるじゃない」
「ん~…まあね?
でもタメだし、もう半年も経つしな~」
最初はニヤって笑った凪都帆だけど、後半の方は寂しそうにうなだれてしまった。
その理由が分からない藍希はまた、小首を傾げて尋ねるのだ。
「半年経ったらどうなるの?」
「いや、半年って決まってる訳じゃあないけどさ、倦怠期ってやつ?
春休みも部活であんまりデート出来なかったし」
倦怠期なんて本当はあまり口にしたくないけれど、藍希が分からないなら説明するしかない。
苦く笑って軽く終わらせようとする凪都帆には気づかず、藍希はそういうものなの?なんて呑気に呟いていた。
反応の薄い藍希に、凪都帆はくすくすと笑い出した。
「何だかんだで、藍希って奥手だよね~。見たまんま。
逆に年上の彼氏いるってことの方が驚きだもん」
「ひど~い」
藍希が膨れて頬を膨らませると、凪都帆はその頬を突ついて空気を押し出した。
二人で一緒に噴き出して、一緒に笑い合う。
「あっ、もうすぐ始業式だね」
「ほんとだっ!体育館行こっ」
元気の良い凪都帆に引っ張られて、藍希も一緒に歩いた。
ちょっとだけ芽生えた不安には心の中で否定する。
__私と淳兄には倦怠期なんてないよね。
だって、もう三年目だもん!
このときは、本気でそう思ってたんだ。