恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「さあ、着いたよ」


そんな楽しそうに「ついたよ」って言われてもなあ。


のろのろと車から下りると、そこは不思議な町並みだった。


眩しいほどに照り付ける、太陽。


鬱蒼と生い茂る背高のっぽの草、どっしりと根を下ろす木。


路傍に生い茂る色鮮やかな原色の植物たち。


どの家も石垣に囲まれていて、どの家も赤瓦屋根で、どの家も背の低い平屋造りだった。


陽射しの照り返しが眩しくて、あたしは急いで麦藁帽子を被った。


「あっつー」


肌が焼け焦げてしまいそうに暑い。


皮膚がひりひりする。


あたし、本当に南の島に来たんだ。


車から荷物を下ろそうとしていた時だった。


「ハイサイ!」


巨木の陰から、真っ黒に日に焼けた肌のおじさんが陽気に飛び出して来た。


「メンソーレ、須藤さあん! 待ちくたびれてしまったさー!」


なに……。


はいさい?


めんそーれ?


聞いた事のない言葉とイントネーションに、あたしは呆気にとられた。


その人懐こい笑顔全開のおじさんにも。


焦げ焦げに焼けた肌に、眩しすぎる白い歯。


真っ直ぐで、無防備すぎる笑顔。


アロハシャツのようで、でもどこか違う、涼しげなシャツ。


麻地のハーフパンツに、履き込まれたビーチサンダル。


「比嘉さん!」


お父さんは持っていた荷物を投げ出して、陽気に現れたおじさんと衝突する勢いで抱き合っている。


「うわあ、何年振りでしょうかね。比嘉さん、変わってないなあ」


少年のように生き生きと楽しそうなお父さんを見たのもまた、人生初だった。


「須藤さんもさ、なあんも変わらんさー」


「比嘉さん、本当にお久しぶりです」


お母さんもだ。


こんなに無防備なお母さん、見たことない。
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