恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
いっそのこと、ばっさり。


でも、と思いとどまる。


髪の毛を切ったら、負けじゃないか。


ボブヘアーのひかりを選んだ大我への、今できる精一杯の嫌がらせ。


切るもんか。


いっそのこと、足首まで伸ばしてやろうか。


「フン」


おばあみたいに鼻を鳴らす。


あたしは髪の毛をひとつに無造作に束ね上げて、バレッタでとめた。


「ふう……あつ」


シャワーを浴びたばかりなのに、無防備な首筋を汗が伝う。


窓から入り込んで来る風はまだ暑いのに、首筋がひんやりした。


その感覚に胸が軽く締め付けられる。


だって、海斗のひんやりした手を思い出したから。


昨日、おばあが言ったこと。


―海斗は、陽妃と同じ傷を持っているよー―


同じ、傷。


あんなにも真っ直ぐで濁りひとつない瞳を持っている海斗に、どんな傷があるというのだろう。


気になる。


考え込み始める寸前だった。


「おーい! おるかねー!」


17時を回った時、玄関先から声がした。


「あっ、はーい! いるよー」


この、甲高い声は美波ちゃんだ。


急いで部屋を飛び出すと、案の定、そこにはツインテールがトレードマークの美波ちゃんが立っていた。


今日はエメラルドグリーン色のシュシュだ。


「ハイサイ、ねぇねぇ! 浜に行こー」


「ハイサイ……あれっ?」


あたしはきょとんとした。


小麦色の肌に、大きなくりくりの目。


「わあっ! 今日のねぇねぇ、いつもと違うさー」


今日は黄色のTシャツに、デニムのミニスカート姿の美波ちゃんが、あたしの顔をまじまじと見つめた。


「ああ、今日お化粧してるからかなあ」

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