恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「可愛いさー。でーじ可愛いさ」


美波ちゃんが笑った。


「わああっ……ねぇねぇはいーっつもきれいなドレス着ているねえ」


美波ちゃんはマキシワンピを見ると、ドレスと言い出す。


いつもと何ひとつ変わらない人懐こい笑顔に、ほっとする。


でも、そこに海斗の姿はなかった。


毎日、17時になるとふたりで来るのに。


あたしはビーチサンダルに履き替えながら、美波ちゃんに訪ねた。


「今日は美波ちゃんひとり? 海斗は?」


「にぃにぃさー」


小さな肩をすくめて、美波ちゃんが答えた。


「まだ帰って来ないの」


海斗とは正反対の大粒の瞳が、寂しそうにつやつや輝いている。


「帰って来ないって。海斗、どこかに行ってるの?」


おかしいな。


流れ星を探しに行くのは、暗くなってからのはずだし。


うん、と美波ちゃんが頷いた。


「学校。今日、登校日だからさ」


どうやら、夏休みに一回、登校日というものがあるらしい。


別にこれといった授業はないのだが、連絡事項等のホームルームや全校集会があるとか。


「そっか。登校日か」


ビーチサンダルを履いて立ち上がる。


「でも、いくら何でも遅過ぎるよね。どうしたのかな」


いくら登校日でも、もう17時なのに。


「仕方ないさー」


人懐こい美波ちゃんが、手を繋いできた。


「にいにいは、生徒会だから」


海斗とは正反対の、小さくて温かい手。


美波ちゃんの手を握り返した。


「すごい。海斗、生徒会に入ってるんだ」


美波ちゃんがぱあっと笑顔になった。
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