恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
あの、見る人を惹き付けて吸い込もうとする、真っ直ぐな瞳。


大人びた顔立ちのくせに、笑うと無邪気で。


人の心の傷に直接触れることはしないのに、気づくと傷口からすーっと入ってきていて。


「にぃにぃさ、でーじ(すごく)優しいよ。美波に勉強教えてくれるば。一緒に遊んでくれるば。それに、おやつも分けてくれるばー」


美波ちゃんは何かに取り憑かれたかのように、ひたすらしゃべり倒した。


「お母さんの帰りが遅い時はご飯作ってくれるさ。お洗濯もお掃除もするさ。あと、かっこいいしさあ。それから、友達いっぱいおるしさー」


それにさ、それにさ。


あとね、あとね。


と、海斗のことをぽんぽん話し続ける美波ちゃんが、猛烈に楽しそうに見えた。


たまらず、あたしは吹き出してしまった。


「美波ちゃんは、海斗のこと、大好きなんだね」


もうじき、浜だ。


波の音が近い。


「うん! 美波ぃ、にぃにぃのこと、だあーい好き!」


「あっ」


あたしの手をぱっと離して、


「浜に着いたー!」


美波ちゃんが駆け出した。


「ああっ! でもさ!」


くるりと振り向いて、美波ちゃんがニッと笑う。


「美波ぃ、ねぇねぇのこともだあーい好きばーっ!」


そして、また駆け出した。


ドキドキした。


夕陽に向かって走り出した美波ちゃんは、小さなシルエットになっていた。


小学生の女の子に大好きだと言われただけなのに、あたしはドキドキしていた。


誰かに、ここまでストレートに好きだと言われたのが初めてだったから。
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