恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
熱い頬を両手で押さえながら振り向くと、右手を振り上げながら走るシルエットが迫ってきた。


美波ちゃんが、


「あ! にぃにぃだ」


すっと立ち上がり、シルエットに向かって駆け出した。


「にぃーにぃー!」


「美波ぃよー! にぃにぃが帰って来るの待ってろよー!」


海斗だった。


「にぃにぃを仲間外れにしたバツさあっ」


と海斗は美波ちゃんをひょいと抱えて、肩車した。


「キャアーッ!」


楽しそうに、嬉しそうに、美波ちゃんが叫んだ。


「陽妃もさ! 何さー! 待っててくれてもいいのによう」


はしゃぐ美波ちゃんを肩車しながら、海斗が向かって来る。


「あ、ごめん」


「まあ、いいさ。許す」


わっ。


海斗の笑顔がやたらと眩しく感じて、あたしは目を細めた。


笑顔だけじゃない。


何もかもが、眩しかった。


「ん? 陽妃。今日はどこかに出かけよったか?」


切れ長の目をますます細めて、海斗が顔を近付けてきた。


その真っ黒な瞳の奥に吸い込まれそうで、あたしは完璧にどもった。


「へっ? あっ……別に。いや、あのっ……どこにも出かけてない、けど」


一度吸い込まれでもしたら、もう二度とこの世界には戻ってこれないんじゃないかと、焦った。


手にへんな汗を握っていた。


「今日は化粧してるんだな」


プッと海斗は吹き出しながら、美波ちゃんを砂の上に下ろした。


海斗の髪の毛。


今日もつやつやで、さらさらだ。


「今日の陽妃は、100倍でーじちゅらさんだね」


あたしはゆっくり深呼吸しながら、胸を押さえた。


「あの……でーじちゅらさんて、どういう意味?」
< 110 / 425 >

この作品をシェア

pagetop