恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
こうして、普通にしているけど。


よくよく思い起こせば……あたし、昨日、海斗に抱き抱えられたんだっけ。


急激に体温が上昇したような気がした。


熱い。


急激に恥ずかしくなって、あたしはうつむいた。


制服姿の海斗を真っ直ぐ見ることができなかった。


「あれーっ?」


大きな瞳をまるく輝かせて、美波ちゃんが顔を覗き込んできた。


「ねぇねぇ、どうしたのかー?」


「へ?」


「顔まっかだよ。どうしたのさあ?」


「……何でもない」


本当に何でもないから、と念を押すあたしに、海斗の手がすーっと伸びてくる。


「本当だね。昨日、雨に濡れてしまったから、熱が出たのかもしれないね」


あたしの額に触れた海斗の手のひらが、やけにひんやりしていた。


「ひゃっ」


灼熱の真夏で、毎日、この暑さなのに。


「あーっつう! 陽妃! 熱があるさ」


「……ちが……本当に何でもないって」


確かに、体中熱いのは本当だけど。


風邪を引いてしまったわけじゃない、と思う。


目の前もくらくらするけど。


これも、具合が悪くて、とかそういうのじゃない。


違う、気がする。


「何言ってるう。これは絶対に熱があるよ! 帰ろう、陽妃ぃ」


海斗があたしの手を掴んで引っ張った。


「だから、違うんだってば」


その手を振りほどこうとした、その時だった。


夕凪の中を切り裂くように、その声があたしたちの時間の流れを、止めた。


「かーいとー!」


声がした方を見ると、浜の入り口にシルエットがあった。


誰?
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