恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
体が火照る。


熱い。


「もうずうっと前なんだけどさ……葵ちゃん、美波に言ったさ」


「何?」


あたしは美波ちゃんのまあるい目をじっと見つめた。


「あのねえ……」


何かをぐっとこらえるような仕草をして、美波ちゃんはぽつりぽつり、と話し出した。


まるで、降り始めた6月の雨粒のように。
















美波ちゃんは、言った。


大粒の瞳をうるうるさせながら。


美波。


葵ちゃん、嫌いさ。


と、最後に小さくつぶやいて、美波ちゃんはあたしの手にしがみついてきた。


声を掛けてあげたいのに、それがうまくできない。


あたしはゆっくり息を飲んだ。


「美波、ねぇねぇとは仲良くできるよ。でも、葵ちゃんとは……できん」


まるで何かに怯えるように、美波ちゃんは小さな体を震わせていた。


あたしは言葉を失っていた。


小さなその手を握り返すことが、精一杯だった。


さっき、美波ちゃんの口から出た言葉たちが、胸をざわつかせていた。


「なあ、海斗。毎日、浜で遊んでばかりいたらだめさ。わあたち、受験生なんだよ」


と葵ちゃんが海斗の肩を小突いた。


「うるさいばー、葵いはおせっかいさあ。なんくるないさー」


「私は心配して言ってるのよ。分からんの?」


と葵ちゃんに睨まれ、海斗は、


「余計なお世話さ」


と少し不機嫌顔になった。


そんなふてくされた態度の海斗の体をぐいっと押しのけて、葵ちゃんがあたしを睨んできた。


「なあ、陽妃さん」


「……え?」


「あんたもよ。受験生を毎日振り回さんでね!」


どうして、この子は何かとあたしにつっかかって来るんだろう。

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