恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
本当に、熱が上がってしまったのかもしれない。


頭のてっぺんからシュウシュウ、湯気が出ているかもしれない。


頬が茹だるように熱い。


目の前がくらくら、揺れる。


「おい、陽妃?」


心配そうな顔をして、海斗があたしの腕をとっさに掴んで、引っ張った。


熱い。


「うわ! 熱いーい!」


熱い。


体に力が入らない。


「大丈夫かね、陽妃よー」


「……海斗」


海斗が2人に見える。


まぶたが、鉛のように重く感じた。


「海斗……と、仲良く……ないで」


揺らめきの中、ふたり、さんにん、と海斗が分裂して増えていく。


これは、陽炎?


もうすぐ、日が暮れて、夜が訪れようとしているのに。


「……しないで」


海斗の顔がぐにゃぐにゃ歪んで見える。


「何言ってるか、陽妃」


あたしはふらつきながら、必死に海斗の腕を掴んだ。


「あのね、海斗」


熱の力ってすごい。


人を積極的にさせる薬が入っているのかもしれない。


「お願い……」


目の奥も前も、ぐるぐる回る。


「あの子と、仲良く……しないで欲しい……の」


ガジュマルの木も、黄昏色の空と雲も、白い砂も。


海斗も。


ぐるぐる、ぐるぐる。


渦巻きの中に吸い込まれて行く。


なぜなのかなんて、自分でも良く分からない。


朦朧とする意識の中で、あたしは思った。


仲良くしないで欲しい。


あの子と。


海斗に触れられたくない。


あの子にだけは。


あの、葵という女の子にだけは。


熱のせいでおかしくなったのかもしれない。
< 117 / 425 >

この作品をシェア

pagetop