恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
しばらくまばたきを繰り返していると、暗がりに目が慣れてきた。


ああ、そうか。


ようやく、事の事態を把握した頃にはもう、暗がりに目が対応できるようになっていた。


浜へ行ったはずなのに、ちゃんとベッドの中にある体。


あたしはまたしても、倒れて意識を失ってしまったらしい。


この島へ来た日も、意識を失った。


おかしいな。


こう見えてもあたし、結構タフな方なのに。


風邪なんて滅多にひかないし、インフルエンザにかかった試しもない。


でも、やっぱり、慣れない土地での暮らしに常に気を張って、緊張の連続で、疲れていたのは事実だった。


それに、ろくにまともな食事もとらないような不規則な生活が堪えたのかもしれない。


ツクツクと時を刻む時計の秒針の音が、やけに大きく聞こえた。


左手にひんやりとした感触があって、ハッとした。


顔だけ動かすと、熱を吸ってぬるくなった濡れタオルが、額からずり落ちた。


ぼんやりとした暗がりの中、あたしの左手を握ったまま、ベッドに突っ伏している人影があった。


すぐに分かった。


海斗だ、と。


「……海斗?」


もしかして、浜から、あたしを運んでくれたのかな。


近いといえども、結構距離あるのに。


男っていっても、海斗はまだ中学3年生なのに。


不意に、ため息が漏れた。


あたし、何やってんだろう。


この島へ来てから、海斗に迷惑かけてばかりいる。


あたしの方が年上なのに。


ごめんね、海斗。


「ね、海斗」


声を掛けても、起きる兆候はなく、気配も感じられない。
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