恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
困って首を傾げていると、お父さんがますますくすぐったそうに笑って、


「いやいや、そんな事ないいですよ」


と頭を掻いた。


すごい。


お父さんはこの人が何て言ったのか分かるんだ。


「長旅で疲れたでしょう。中でお茶でも……あ、陽妃ちゃんには島バナナのジュースがあるからね」


そう言って、比嘉さんは荷物を運ぶのを手伝ってくれた。


「陽妃ちゃんは高校生よね?」


「2年です」


「こん島にも何人かおるけど、この集落に高校生はおらんからねえ」


「そうなんですか」


「そうさ。だけどさ、隣の集落にひとりおるよ。陽妃ちゃんとおんなじ2年生さ」


「そうなんですか」


「うちの子は中学3年生と小学3年生さ。年下だけど仲良くしてやってね」


「こちらこそ」


あたしがどんなに無愛想に返事をしても、比嘉さんはにこにこ笑顔だった。


「分からんことがあったら、何でも聞いてね」


話に聞いていた通り、本当に親切で温かい人だった。













やっぱり、大人しく引っ越しの手伝いしとけば良かったかも。


後悔しながら、あたしはさとうきび畑のトンネル道をふらふら歩いていた。


「近くに浜があるからさ」


荷物を運んでいる時、ひと休みしていたあたしに比嘉さんがすすめてくれた。


あとは大人たちがやっておくから島を散歩してくるといいよ、なんて。


面倒な作業から逃れられる、なんてずるい事を考えたからこんな目に合うんだ。
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