恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「あの……海斗」


あたしは左手を動かした。


ううーんと寝ぼけ混じりの唸り声がして、海斗がゆっくり頭を上げた。


目をこすりながら辺りをキョロキョロしたあと、突然、ハッとした様子であたしの顔を覗いてきた。


「気がついたかね!」


「うん……あの、あたし」


枕元に落ちた濡れタオルをあたしの額に落として、海斗はクスリと笑った。


「びっくりしたさ。ぶつぶつ、譫言言いながら倒れるんだからさあ」


ああ、やっぱり、とあたしは肩をすくめた。


「ごめんね。もしかして、海斗がここまで運んでくれたの?」


「そうさ。疲れたさー。意識の無い人間て、重いんだね」


「ごめん!」


飛び起きようとしたあたしを、


「まだ起きたらだめさ。すごい熱だったんだからよー」


と海斗が両手で押さえつけた。


「へっ? 熱?」


どうやら、本当に熱を出してしまったらしい。


夏風邪かもしれない。


でも、喉が痛いわけでも、咳が出るわけでもないけど。


まだ、ほんのりと体が熱くて節々がギシギシ痛む。


「ごめんね、陽妃。島には病院が無いからさあ。先生がいないからさあ」


何、この島は病院もないの?


「だから、明日になっても熱が下がらなかったら、石垣島の病院に行こう」


どうやら、フェリーに乗って石垣島か沖縄本島に行かないと、診察をしてもらえないらしい。


一気に、体から力が抜けて行った。


「陽妃のお母さんに電話しておいたからさ。もうすぐ帰って来るって。今日はお客さんが多くて、忙しいらしいよ」


「そう。ありがとう。ごめんね」


「それまではおれがここにいるからね。心配しなくていいさ」


暗がりの中の海斗の声は優しさがにじみ出て、安心できた。
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