恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「いいよ、大丈夫だから。あたしより美波ちゃんは? 美波ちゃんと一緒に居てあげて」


「美波なら大丈夫さ。裏のおばあに預けてきたからね」


と話しながら、海斗はあたしの額からタオルをとった。


カラン、カラン、と音がした。


そして、タオルを絞る音も。


「美波はおばあによくなついているからね。おばあも、美波に良くしてくれる」


洗面器にたっぷりはった氷水にタオルを浸して絞り、海斗はそれを額にそっと置いた。


「ひゃっ……冷たい」


キンキンに冷えたタオルが、額からぐんぐん熱を奪っていく。


「どうだね! でーじ気持ちいいだろ」


楽しそうに、クスクスと海斗は笑った。


「うん。すごく」


あたしも笑ってしまった。


「海斗の手のひらが乗ってるみたいで、気持ちいいな」


この真夏でもひんやり冷たい、海斗の手。


初めは少し抵抗があったけど、今はけっこう好きかもしれない。


海斗の手のひらの温度。


「おれの手はそんなに冷たいかね」


暗がりの中でも、海斗の瞳はつやつやと輝いていた。


「あのさあ、陽妃」


海斗が言った。


「ちゃんと、ご飯食べているのかね?」


「……何で?」


少し間があったあと、遠慮がちに海斗が続けた。


「陽妃を背負った時、心配になったば」


心配?


「陽妃、痩せすぎじゃないかね。怖かったさ。力を入れたら骨が折れてしまうかもしれんって」


「ああ……」


あたしは降参した。


海斗に嘘を言っても、無駄だ。


その真っ直ぐな瞳に嘘なんてつけそうもなかった。


「実は、あまり食べてない」


あたしはため息混じりの苦笑いをした。
< 121 / 425 >

この作品をシェア

pagetop