恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
耳が遠いのだろうか。


それとも、わざと聞こえないふりをしているのだろうか。


「ガジュマルの木って、どんな木なの?」


あたしの質問には答えず、


「風が強いんは、波が荒れるんは、カン様がお怒りになっている証拠やんど」


おばあちゃんは曲げた腰を握り拳でこんこん叩きながら、さっさと歩いて行ってしまった。


「ガジュマルに触れたら、良くない事が起こるだに」


ざあっと強い風が吹いて、麦藁帽子が飛ばされそうになった。


「あっ……と」


慌てて両手で押えて、あたしは遠ざかるおばあちゃんの後姿を見つめながら、しばらくそこに立ちすくんだ。


「ねえ……ウシラシって何なのよ。ガジュマルって」


どんな木なのよ。


災いって何なのよ。


一体、何なの……この島。


災いなら、もうとっくに起きた。


東京で、起きたし。


……とっくに。














さとうきび畑のトンネル道を抜けると、一気に潮風が強く濃くなった。


「うっわあ」


見渡す限りどこまでも広がる海に、たまらず息を飲み込んだ。


なんて、綺麗なんだろう。


これが、与那星島の海なんだ。


「なんだろう、この色」


水平線付近は濃い瑠璃色で、遠瀬の辺りはコバルトブルーで。


浅瀬に近づくにつれて、水色で。


次第に透明になって。


空の青なのか、海の青さなのか、境目が分からなくなってくる。


風で海の水面がたなびいて、太陽光を吸収しながらきらきら輝く。


白い砂浜がずっと向こうまで続いていた。
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