恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

ムーンロード

ネオンだらけで煌々と明るい、東京の夜。


人でごった返す、スクランブル交差点。


店先のスピーカーから流れる流行りの洋楽で賑やかな繁華街。


あの街の夜と比べたら雲泥の差だと思う。


ここは、与那星の夜は静かだ。


聞こえるのは風に揺れる草木が奏でる音色と、虫の声。


夜を照らすのは家屋からこぼれる温かみのある灯と、月明かり。


そりゃあ、大都会のネオンと比べること自体間違っているのかもしれないけど。


天と地だ。


けれど、最近はこの素朴な仄明るい夜道も捨てたもんじゃないと思えるようになった。


「……あれっ……なんで?」


あたしは海斗の家先でぽつりと立ち尽くした。


ショルダーバッグが肩からずり落ちる。


「……真っ暗」


暗くなると必ず灯る比嘉家の玄関先の明りが付いていない。


玄関も閉まっているし、どうも人の気配はないし、シンと水を打ったように静まり返っている。


海斗の両親はもちろん、あたしの親もここ最近ずっと観光客の宿泊の予約がいっぱいで忙しいらしく、帰りは常に真夜中だ。


場合によっては帰って来ない日もある。


もしかしたら裏のおばあのとこでご飯をごちそうになっているのかもと思い、ずり落ちたバッグを肩からかけ直し、行ってみることにした。


おばあの家は集落でいちばん古い。


玄関の戸を開けると、いつもお線香の香りが漂っている。


「あ……やっぱり」


玄関にはおばあのサンダルの横に、小さなピンク色のビーチサンダルがちょこんと並んであった。


美波ちゃんの物だ。


「おばあー!」


大きな声で呼んで、さらにしばらく待ってやっと居間の引き戸がススーと開いて、おばあがぬうっと顔を出した。


「誰かね」


目を細めてじーっとあたしを見たおばあは「フン」と鼻を鳴らす。


「……なんだ、やーか」


もう、おばあの可愛くないのには慣れた。
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