恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「そうかね。美波が泣いちょったよ。陽妃と遊びたいってさ。海斗と陽妃と3人で、また浜に行きたいってさぁ」


あんなにぶっきらぼうだったおばあがやけに優しい口調で言うものだから、調子が狂ってしまう。


「あ……うん」


あたしは頷き、そっと肩をすくめた。


そんなあたしの背中を、


「陽妃」


おばあがさするように優しい力で叩く。


「美波と、また遊んでやれぇ」


「……うん」


それとな、とおばあが続けた。


「海斗と葵や、陽妃が思っているような関係じゃねーらん。勘違いさんけー(するな)」


「えっ」


弾かれたように顔を上げると、


「ただの幼ななじみやっさー」


おばあは得意気な口調になり、口角を上げた。


「もう80をとうに過ぎやしがな、くぬオバァやしがいなぐさ(このおばあだって女さ)。恋をしちょる人間やぁミー(目)を見れば分かるさ」


オバァやしが大恋愛しちゃんだしよ、そう言ったおばあは、あたしの目を真っ直ぐ見つめてくる。


「海斗が惹かれているんや葵じゃねーらん。やーさ」


「……え?」


硬直したあたしからふいっと目を反らし、月を見上げながらおばあは淡々とした口調で聞いてきた。


「あぬ日、海斗が何をしに石垣島に渡ったか、分かるみ?」


あたしは首を振った。


「……分かんないよ。あばあ、知ってるの?」


「さてね。何をしに渡ったんやーえ(渡ったんだろうね)」


しらじらしい言いぐさだ。


「知ってるなら教えてよ、おばあ!」


食いついたあたしをチラリと横目で見て、おばあがおもむろにその方角を指さす。


「そんなに知りたいなら、聞いてくるといいさ」


と。


向こうは浜がある方角だ。


ゆるゆると揺れるロウソクのような風が吹いて、足元を通り過ぎて行った。


おばあは言った。

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