恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「結局さ。傷付けてしまう結果になってしまったね、美波のこと。陽妃にも迷惑かけてしまったね」


「……え……あたし?」


あたしは別に何も、と顔を上げると、海斗もこっちを見ていて目が合った。


「この間のことやしが。聞いたよ全部、美波から。陽妃、木に登って助けてくれたんだってね」


足は大丈夫かね、と心配そうに海斗が表情を曇らせる。


「ああ、もう平気……全然、もう」


「良かった……ありがとうね、陽妃」


「……ううん」


あたしはふるるっと首を振り、


「あたしの方こそ……ごめんね」


目を反らしてうつむいた。


海斗の真っ黒な瞳は、どうしてこんなにあたしを惹きつけて、捕えようとするんだろう。


「……」


「……」


少し長い沈黙を破ったのは、海斗の弱弱しい自信なさげな声だった。


「……怖かったんだしよ」


「え?」


「本当のことを知ったら美波、もう、おれのことにぃにぃって呼んでくれんかもしれん、て。怖かったんだしよ」


声を上ずらせながら言う海斗の話に耳を傾けながら、あたしはTシャツの胸元をむしるように掴んだ。


呼吸をすることもままならないくらい、息苦しくて。


海斗が抱え続けてきた深い傷を思うと、切なすぎて。


胸が潰れてしまいそうだ。


「やしがね、今日、本当のことを話したんだ。美波、泣きながら言ってくれたんだ」


――にぃにぃはにぃにぃさぁ! 美波のにぃにぃさぁっ!


「……嬉しくてさ、死んじゃうかと思った」


水面をするすると滑るように吹いてきた風にあおられながら、あたしはそっと目を閉じた。


つつ、と一滴の涙が頬を伝い落ちる。

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